三田村氏による個展「はんこと禅語」のタイトル      
 
2024年
 
5月15日
水曜日
 
 
 
〜18日
土曜日
 
12時〜19時(最終日17時まで)
場所
ギャラリー SIACCA
東京都中央区銀座2-9-16
サウンドバレービル地下一階
03-3563-2626
三田村きあん展
地下鉄有楽町線/銀座一丁目駅
(10番出口11番出口)

HANKO KIAN BRAND 〉

2023年 はんこと文学展 〉

古の人は、人と人との「約束」を大切に関係をつくってきた。
京の都にある糺の森の奥深くに鎮座まします「おしでの大神」は「契約の神」として「印璽社」に祀られている。
大切な契約の時、物事を成功裏に結び付けたい時などに大阪の船場の商人は足を運び参拝した。
コロナ禍以降、「押印廃止」の号令が印章と共に「約束」を大切にしなくなった。
印が不必要になった紙は、軽くなりデジタル化され、利便性を優先し、迅速に物事が進められるようになった。
軽く速くなった「約束」は、中身も軽薄なもの、危ういものとして変わっていったような気がする。
本来、「約束」は日常のなかで欠かせない人と人との関係を円満にする役割をもち、
早ければよいというものではなくかえって手間暇をかけて一から作り上げていくものである。
ちょっとしたことで崩れてしまう人と人の関係は、争いや時として戦いの火種になってきた。
それを畏れた者たちが、人の力を超えるもの「おしでの大神」のところに足を運び、
手を合わせて、神と人の「約束」をつくりだします。
その上で、人と人との「約束」に移っていくのだ。

STORY

私はこれまで、はんこを彫る職人として多くの人や会社に商品としてのはんこを提供してきました。
はんこは押印によって自らの「認証」を紙面に示す為に存在するものです。
人と人との「約束」や自らの決意、認められた歓びを証するそれは、アイデンティティの結実であり「人」や「会社」そのものだと私は考えます。
私の作品には、唐草やアールヌーボーなど自然の持つ愛らしさ、日本古来の美である崩しと間へのリスペクトがあります。
それは、私の幼いころから育んできた美しさとの共感であります。

印鑑はプライベートなものであり、公に晒されることは「否」とされ、引き出しの奥を棲家とします。故に私は印章作家として作品を公に披露することなど、一生ない、それが職人としての生き方だと思ってきました。そこに新たな思いを投じたのは「デジタル化」の波でした。

「印鑑は無用。この世からはんこは無くなる」

職人として生きた私の人生は、時代という残酷な刃に切り捨てられてしまうのか? 時代の波に翻弄させられた、小さなものづくりに命をかけてきた日本の名も無き名工の諦念が、私に「継承」という要請をしてきました。

「私たちは職人である前に美の探求者であり、アーティストである」彼ら名工達の叫びが神々しく舞い降りたのは一昨年のこと。

皆さんに私、三田村煕菴の美意識を感じて頂きたい。私の作家としての意識は、常に誰かの門出を祝福してきたのです。今、作品を前にするあなたを心から祝福し、楽しませることができるなら、私の作家としての道は光に満ちているはずです。

最近、デジタル化は私に大きなチャンスをくれたと考えるようになりました。
今まで門外不出の印章の美を世に出していく機会を「おしでの大神」はくださいました。
今の全ての印章がそうだとは言いません。唯一無二という職人道徳を掲げ、技術に向かい、日々精進し次に伝えるという役割を担った人にのみ、そのチャンスは与えられたのだと思います。 今、その役割を痛いほど感じながら、残す職人人生のすべてをかけて臨みたいと考えています。

昨年の個展「はんこと大阪の文学」は、世界で初めての実用印章の美の個展となりました。
大阪の文学を集め、その中にはんこをアクリル絵の具を用いて描いたものです。
お蔭をもちまして、多くの方にご高覧賜り、私自身も多くの学びを得ました。
また、年末にはクラウドファンディングで今回の個展に向けてのご支援を呼びかけさせて頂いたところ、予想を超える結果となりました。そのご支援をパワーにして、今回は東京を舞台に「はんこと禅語」というテーマで、自らの技術を思う存分に表現してみようと思います。

印章の美は、日常に存在してきた「約束」を円滑に進めるための美でありました。
禅語も日常生活の「約束」を再認識させてくれる言葉です。
多くの方のご観覧をお願い申し上げます。


三田村煕菴
1959年 大阪生まれ
賞歴
平成29年 秋 黄綬褒章受章
/卓越した技能者表彰「現代の名工」
/大阪府優秀技能者表彰「なにわの名工」